フランス料理の『ポタージュ』といえば、コーンポタージュやかぼちゃのポタージュをイメージする人は多いのではないでしょうか。
『ポタージュ』と『スープ』の違いをご存知ですか?
へ?野菜のクリームスープとそれ以外のことじゃないの?
実は『ポタージュ』はフランス語で『汁物料理』全般を指します。
そうなんだ!
ひとつ賢くなったよ!またね!
~おわり~
……茶番は置いといて、ここで終わると水だけのスープより味気ない記事ですのでもう少し深堀りしていきましょう。
ここからは
- 『ポタージュ』と『スープ』の違い
- 『ポタージュ』の分類
- 『スープ』の起源と『ポタージュ』と呼ばれるまでの変遷
を詳しく解説していきます。
- ホテルでフランス料理を10年以上続けています。
- 現在はシェフ・ド・パルティ(部門シェフ)
- 調理師免許の上位資格、【西洋料理専門調理師】取得。
参考文献【フランス料理ハンドブック】310~315ページ
ポタージュとは?フランス料理で「汁物料理」の総称
ポタージュ(potage)はフランス料理で「汁物料理」の総称です。1
「ポタージュ」と聞くとクリーミーなスープを思い浮かべますが、実際にはそれ以上に幅広い概念を含んでいます。
ポタージュは大きく以下の3種類に分けられます。
ポタージュの分類 | 説明 |
---|---|
スープ(soupe) | 具だくさんで田舎風のスープ。 |
ポタージュ・クレール(potage clair) | 透明でクリアなポタージュ。主にコンソメを指す |
ポタージュ・リエ(potage lié) | とろみがついたポタージュ。 |
ポタージュ・リエの種類 | 説明 |
---|---|
ポタージュ・タイエ | 具材を美しく切り揃えたポタージュ。 |
ポタージュ・ピュレ | 野菜をピューレ状にしてとろみをつけたスープ。 |
ビスク | エビやカニなど甲殻類を使用した濃厚なスープ。 |
クレーム | 卵黄や生クリームを加えてとろみをつけたもの。 |
ヴルーテ | 小麦粉とバターを使ったルーでとろみをつけたもの。 |
図解で解説するとこんな感じです。
ポタージュにはそれぞれ異なる風味と調理法があり、フランス料理の奥深さを感じさせます。
ポタージュの知識を深めれば、フランス料理の魅力が一層広がるでしょう。
スープ(soupe)│フランスの具だくさんスープ
スープ(soupe)は、食材を水やブイヨンで煮込んだ具だくさんの田舎風の料理。
代表的な料理 | 概要 |
---|---|
ポトフ(pot-au-feu) | 肉や野菜を鍋で煮た料理。 豚肉、キャベツ、ジャガイモなどをよく使う。 |
ガルビュール(garbure) | 生ハムやいんげん豆などで作るスープ。 |
オニオングラタンスープ(gratinee) | 飴色になるまでじっくり炒めた玉ねぎのスープにパンとチーズをのせて焼き上げる料理。 |
よく見るとフランス語綴りでは「soupe」となっています。
日本語で西洋の汁物料理をイメージする「スープ」は英語の『soup』が由来です。
具沢山のスープでも、具の食材を丁寧に切り揃えて高級感を出した場合、後述する「ポタージュ・タイエ(potage taillé)」と呼ばれます。
ポタージュ・クレール(potage clair)│澄んだ透明感のあるコンソメ
ポタージュ・クレール (potage clair)は澄んだポタージュで、代表的なのが「コンソメ」です。
「コンソメ(consommé)」は「完成された」という意味があり、その名にふさわしい精巧なフランス料理の一つとされています。
日本では固形の素で作る簡単なスープが「コンソメ」として広まっていますが、本格的なコンソメを一から作るにはかなりの時間と技術をかけた高級な料理です。
作り方は、まず長時間煮込んだブイヨンに肉や魚介・香味野菜(ミルポワ)を加え、じっくり煮込んで旨味を引き出します。
その後、卵白でアクを取り除く「クラリフェ」という工程を行い丁寧に濾します。
完成までに3〜4日かけて、ようやく澄んだコンソメの完成です。
その透明な見た目と深い味わいは、フランス料理の技巧と美しさを象徴しているのです。
ポタージュ・リエ (potage lié)│とろみがついたポタージュ
ポタージュ・リエ (potage lié)はとろみのあるポタージュを指します。
『リエ』は『とろみをつける』という意味です。
ソースやスープを仕上げるときによく使う言葉なので、フランス料理を専門とするなら必ず覚えておきましょう。
ポタージュ・リエはさらに以下の種類に分類されます。
ポタージュ・リエの種類 | 説明 |
---|---|
ポタージュ・タイエ | 具材を美しく切り揃えたポタージュ。 |
ポタージュ・ピュレ | 野菜をピューレ状にしてとろみをつけたスープ。 |
ビスク | エビやカニなど甲殻類を使用した濃厚なスープ。 |
クレーム | 卵黄や生クリームを加えてとろみをつけたもの。 |
ヴルーテ | 小麦粉とバターを使ったルーでとろみをつけたもの。 |
ポタージュ・タイエ (potage taillé)│具材を美しく切り揃えたスープ
ポタージュ・タイエ(potage taillé)は、具材をきれいに切り揃えたスープを指します。
「タイエ(taillé)」はフランス語で「切り揃える」という意味です。
- ペイザンヌ(色紙切り)
- アリュメット(マッチ棒サイズ)
- ブリュノワーズ(小さな角切り)
など具材の切り方にこだわり、美しさを追求します。
「農夫風ポタージュ」キュルティヴァチュール(cultivateur)が代表的な料理です。
トマトが入っていないミネストローネのようなスープです。
フランス料理は美しい見た目が料理の価値を高めるため、正確な切り方が求められます。
基本的な切り方を習得し、美しいスープを提供できる技術を身につけましょう。
ポタージュ・ピュレ (purée)│クリーミーな野菜のスープ
ポタージュ・ピュレ (purée)はデンプン質を含む野菜を煮込んでピューレ状にし、生クリームや牛乳で仕上げた滑らかなポタージュです。
みなさんが想像する「野菜のクリームスープ」がポタージュ・ピュレに当たります。
野菜の自然な甘みとクリーミーな味わいが特徴です。
代表的な料理 | 説明 |
---|---|
パルマンティエ(parmentier) | ジャガイモのポタージュ |
マイス(mais) | コーンのポタージュ |
クレシー(crecy) | 人参のポタージュ |
ポタージュ・ピュレを作る際は、野菜をじっくりと柔らかく煮込み、ミキサーや裏ごし器で滑らかにするのがポイントです。
ビスク (bisque)│濃厚で贅沢な甲殻類のスープ
ビスクは、エビやカニなどの甲殻類を使った濃厚で高級感のあるポタージュです。
オマール海老やカニの殻をじっくりと炒め、香味野菜(ミルポワ)と共に煮込み、仕上げにクリームを加えると濃厚でまろやかな味わいになります。
代表的な料理 | 説明 |
---|---|
オマール海老のビスク(bisuque de homaerd) | オマール海老の殻で作るビスク。 |
カニのビスク(bisuque de crebe) | ワタリガニなどの蟹の殻で作るビスク。 |
フランス料理の中でも贅沢で特別感のある一品です。
スープの起源とポタージュの発展
元来、肉や野菜を煮込んだ出汁(ブイヨン)に硬いパンを浸してふやかし、粥状になった料理を『スープ』と呼んでいました。2
汁のほうじゃなくて、ふやかしたパンの方が『スープ』だったんだ!
現代でもスープにクルトンを浮かべる習慣は、その名残です。
スープからポタージュへの変遷
15世紀から18世紀にかけて、富裕層たちの間で、とろみのある濃い煮汁を『ポタージュ』、食材を水やブイヨンで煮込み、濾さない汁物は田舎の庶民が食べる『スープ』(soupe)と区別されるようになります。
ポタージュはその滑らかで洗練された見た目と味わいから、具材ではなく煮汁の方に価値を見出した上流階級の間で人気となりました。
味噌汁もポタージュに含まれる?│potage étranger(ポタージュ・エトランゼ)
実は味噌汁も「ポタージュ」に含まれます。
その場合、ポタージュ・エトランゼ(potage étranger)と呼ばれ、(フランスから見て)「外国のスープ」を意味します。
他にも
- ミネストローネ
- ボルシチ
- クラムチャウダー
などフランス以外で親しまれているスープも「ポタージュ・エトランゼ」に分類されます。
まとめ
この記事では、『ポタージュ』と『スープ』の違い、その歴史、そして各分類について解説しました。
おかげで明日からこの知識がきっと役に立つよ!
しかしながら、実際のキッチンでは『ポタージュ』と『スープ』の呼び名を細かく使い分けているわけではないので、
今回の内容は実践ではあまり役に立たないです。(小声)
そんな……。
スープとポタージュの違いを理解できれば、フランス料理におけるそれぞれの役割や意義を深く知れます。
今回の知識は、フレンチを学ぶ上での基礎であり、現場での会話や指示に対する理解を深める手助けとなるでしょう。
一流シェフの中にはこれらの定義をもとに独自の料理哲学を持ち、創造的なメニューを考案する方もいます。
知識の積み重ねは、新しい料理のアイデアや発想のきっかけとなり得ます。
今後、ポタージュのバリエーションや具体的なレシピについてもさらに詳しく紹介していきますので、どうぞ楽しみにお待ちください。
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